BOLYインタビュー⑤ NEW LIGHT POTTERY永冨 裕幸氏
BOLYインタビュー⑤ NEW LIGHT POTTERY永冨 裕幸氏
THE BOLY OSAKAのRIVERVIEW DOUBLEとTWINの客室には「Solaris」とチューリップの形が印象的な「lily」を、KITAHAMA Atelierタイプには「Bullet round shade」を導入しました。 実際にBOLYに宿泊いただいた客室にて、NEW LIGHT POTTERY代表の永冨 裕幸さんにお話を伺いました。
INTERVIEWER:THE BOLY OSAKA ディレクター 増田聡
NEW LIGHT POTTERY
ニューライトポタリー
永冨裕幸と奈良千寿が2015年に設立した照明デザインスタジオ。
店舗などの照明計画を手がけ、その経験を生かしたオリジナル照明をデザイン。
奈良を拠点に活動する。
http://www.newlightpottery.com/
永富 裕幸氏とNEW LIGHT POTTERY、infix。
増田:このホテル計画の最初の段階で、弊社代表兼デザイナーの間宮吉彦が「照明器具は、永冨君って人にお願いしようと思ってんねん」みたいな事を私に言っていまして、建築のリストにも「照明器具:永冨」と記載されてて、最初はインデペンデントな職人さんみたいな方を想像していたんですが、後々NEW LIGHT POTTERYさんだと分かったという。
永冨:(笑)
増田:弊社infixや間宮とのそもそもの繋がりについていまいち分かって無いのですが、その辺りからお話伺えないでしょうか?
永冨:はい。僕が以前、Maxray (現ウシオライティング株式会社)という照明会社に在籍していていて、(THE BOLY OSAKAの照明計画を担当頂いた現ウシオライティング株式会社の)伊藤さんの下に付いてたんですよ。その伊藤さんの担当しているinfixの案件で、僕は図面を描いたり、打ち合わせに行ったりというのをやっていたので、その頃からのお付合いですね。それこそ、infixの事務所が(南船場の書店)Hacknetの上にあった。。。いや、違いました、その後の本町の事務所の時ですかね。
だから、今回のホテルにアンディーウォーホールのマリリンモンローがあったりとか、ハラーの什器があったりというのを見て、あの頃のあれがここに来たなとすごく懐かしくて、嬉しかったりしてます。(笑)
:※THE BOLY OSAKAに飾られているアンディーウォーホールのマリリンモンロー。本物です。
増田:ゲストの方は誰も分からないでしょうけど確かにそうですね(笑) では、初めての弊社とのお付合いは15年前とかなんでしょうか?
永冨:そうですね、僕がMaxrayに入社したのが25歳の時だったので、14年前とかだと思います。。それこそ学生時代、Infixで働きたくて、インターンでなんとか入れへんかなみたいに考えてました(笑)
僕ら世代はMeetsとか見てて、みんなInfixに憧れてる世代だったんで。なので、今回BOLYのお話聞いた時に、これはもう是が非でもやりたいなって思ったんですよね。
:※2001年、2002年の関西情報誌「Meets Regional」のinfix特集号
増田:独立されてからもLUCUAの(弊社デザインの)キュッヒェニューミュンヘンの案件なんかで使用させて頂いてますね。 特注も多いんでしょうか?
永冨:そうですね、ニューミュンヘンとか丸福珈琲の店舗で使用してもらっています。最近は既製品というよりは、ここにこんなん作りたいという話を伺ってからニュ−ライトポタリーから提案する事が多いです。(もうすぐオープンする銀座三越の)丸福珈琲の照明は、ガラスシェードを木型から完全にオリジナルで作ったんですよ。
増田:BOLYではSolarisとLilyは既成品ですが、Bullet round shadeは別注色で作って頂きましたね。
NEW LIGHT POTTERYさんの来歴について改めてお聞きしたいんですが、永冨さんはもともと建築を学ばれたていたんですか?
永冨:そうですね。大学は建築とインテリア等をやってましたね。
増田:そこから照明会社に入って…
永冨:その前に一度、設計事務所に半年くらい居ました。そこで、照明計画の担当の方と会って、「世の中には、こんな仕事があるねんな」と知りました。コンシューマー相手じゃなくて、建築家とかインテリアデザイナーっていうプロ相手の仕事なので面白そうやなと思って建築から照明に興味が移りました。それで調べたらMaxrayという会社と分かり、(何年か経って)たまたま募集していたので応募したら受かったっていう。
増田:ちなみに、アメ村の名物食堂の「ニューライト」から名前を取ったって他のインタヴューで拝見したんですが、本当ですか?
永冨:そうです。ライトに関するブランド名は「○○LIGHT」っていうカッコイイ名前が多いんですけど、なんとかかっこ悪くしたいなといろいろ考えまして、「ライト」界で一番カジュアルなのはアメ村の「ニューライト」やなと 笑 ニューってつくものって、だいたい古いじゃないですか。新世界とか。そのふざけた感じいいよなって(思って命名しました。) あと、セイロンライス※ 好きですし(笑)
「ポタリー」っていうのは元々付けたいって感じてました。「ポタリー」は、焼き物の窯とか陶芸家の事ですけど、モノづくりの根源的な、「焼き物を焼くように照明器具をつくれたら」という意味を込めています。僕らはプロダクトを作ってますけど、クラフトマンと一緒に作ることも多いですし、バチバチの完成品を作るというよりは、やっぱりゆらぎを残したもの作りをしたいと思って、「ポタリー」を最後に付けました。
※食堂「ニューライト」の名物メニュー
ホテル環境の照明について
増田:また、ホテルについてもお聞きしたかったです。以前の打ち合わせの際にもサイドボードの上に「R2」を入れたいと弊社からお話ししたら、「落下の危険があるからやめた方がいい」と提案されたり、最近のホテルで結構暗い部屋が増えてるみたいな話だったりと、照明のプロならではの視点やなって思いました。それこそ今回BOLYに泊まって頂いての感想や、ホテル環境の照明について気になることってあったりするんでしょうか?
:テーブルランプの「R2」。
永冨:そうですね。例えば、今回大光電機さんの(ベッドサイドの)システムが入っていますが、そのボタンの中に調光のつまみがなかった点とかですかね。僕も最近、調光無しでできる部屋をやろうとしているので勉強になりました。
今までのホテルのベットサイドで調光つまみが必須の理由ってやっぱり本を読む人のためだったと思うんですね。隣に人が寝ている時にもう一方の人だけにうっすら光を当てる為のものだったと思うんですが、今のタブレットとかは自身が発光するから必要性が減っているっていう。
増田:しかもスマホやタブレットは勝手に調光しますもんね。
永冨:そうそう。なので今回泊まってみて一番思ったのは調光無しでも案外全然いけるなって。
(THE BOLY OSAKAは、位置する)中之島の夜景をウリにしてると思います。僕も実際昨日は、開けっ放しで寝ましたし、そうなるとやっぱりそんなに調光って必要ないな、十分これくらいの明るさでいけるかなと。
増田:なるほどですね。もちろん今回の大光電機さんのベッドサイドのシステムでもどれくらい(調光機能を)盛り込むかって議論はしたんですけど、結構海外のホテルって(ベッドサイドのシステムが)雑だったりするという話になりまして。 日本のビジネスホテルとかは沢山ボタンがあってしっかりやってるんですけども...
永冨:そうですよね。それで案外使いきれなかったりしますよね(笑)。
増田:そうそう(笑)あんまり分からなかったり、結局全消しか全灯かのボタンしか使わなかったりするので、そんな細かく分けなくてもいいんじゃないかという事でこの位のシンプルさとなりました。
永冨:いやぁ、これ位でいけるんやなって僕も勉強になりました(笑)。
増田:いやそんな(笑)。プロの方にそう言ってもらえると嬉しいですね。
永冨さん的に照明がイケてたなっていうホテルは国外含めてあったりしますか?
永冨:そうですね、海外は仰ったとおり、割と雑なんですよね(笑)。
僕も海外行くと毎晩やっぱり違うホテルに泊まるようにしてるんですけど、まぁこれぐらいでいいかっていうラフなホテルがいっぱいあると思います。
増田:その雑さがいいなというか、それも含めてそのホテルの感じに合っていたら、もうそれは正解っちゃ正解ですよね。
永冨:そう思いますね。
増田:Soralisもゆらぎ感とか含めて(川側の)この部屋にとても合ってると思っているんですけど、実際泊まられていかがでしたか?
永冨:はい、こんなに効果的に使ってる所って逆にいうと無いと思います。こんな風に(影が)出るんやっていうのは勿論知ってはいたんですけど、特に壁が白かったんでハッキリと影が出ていて、すごく効果的だったと思います。
増田:あと柱や、梁が残ってるのでそのずれなんかがちょうど良いのかなと思ったりします。
永冨:確かに躯体の変わり目で影の違いが出てたりが、すごく良かったです。 (Soralisを)使いたいってお話頂いた段階でコンセプトとばっちり合ってるなとは思っていたのですが、逆にハマり過ぎな位ハマったっていう(笑)。
増田:そう言っていただけると、とてもうれしいです!
永冨さんのイメージ
増田:僕の最初の(永冨さんの)イメージは、作風を拝見してというのもあってか、もっとナチュラルな方なのかなと思ってたんですけど、 最近、instagramでガラスのドームみたいなの買わはって、その中に人体模型を入れたら社員に不評だったとか、アンティークのスイッチをギャラリーのネオンのスイッチにしたとか、お会いするうちに僕の印象だと、永冨さんってすごく「男の子」っぽいなと思うんですね。
永冨:(笑)
増田:デザイン雑誌の取材では、そういうところはあまりお見せになってないのか。
永冨:(笑)
増田:照明のネーミングとかも”ソラリス”とか"R2"とか、そういうのって普通の「おしゃれ」な人が絶対やらない感じがすごい「男の子」っぽいな。関西人やなと思ったり。
永冨:未だにファミコンのゲームのソフトとかやったり...(笑)
増田:笑 なんとなくわかります。映画もお好きなんですか?
永冨:映画も好きですね。ネーミングは映画かゲームから取りがちですね。
増田:Solarisは、やっぱり「惑星ソラリス」からですか?
永冨:勿論です(笑)。 最初ほんまは"デス・スター"やったんですけど、それは流石にディズニーから止められるやろっていう。
増田:確かに(笑)。縁起悪いですしね。壊れますしね。 ゲームはよくされるんですか?
永冨:今は全然やらないですけど、例えばDig dugっていうライトは、小学生の頃好きだったゲームの「ディグダグ」から取りました。4層のレイヤーになってるのが「ディグダグ」のステージみたいやからなんですけど「こういうソフトがあってね」って画像検索して奥さんに説明してもポカンなんですよ(笑)
:↑ゲームの「Dig dug」から取ったという「Dig dug suspension」
増田:そういうのがいいですよね。分かる分からんは置いておいて、名前ってハマる時はハマりますからね。
永冨:そういう意味では、「BOLY」って面白いですよね。土佐堀(通り)の「BOLY」っていう。
電球から作る。
増田:今、白熱電球から作ってらっしゃると聞いて、もう少し詳しくお聞きしたいです。
永冨:白熱電球をなんで作ろうかと思ったかというと、照明の器具はもちろんいろんな方がデザインがされていて、様々なものがあると思うんですけれども、白熱電球って、なんでこんな仕組みなんやろとという疑問から始まりました。
普通の既製品は、フィラメントが直線なんですよね。効率を追い求めると直線になるんですけど、直線になればなるほど輝度が高くなって眩しくなる。そのフィラメントにはステムがあって、2本のアームで挟んである。という事は、影が絶対出るんですよ。ここの影がめっちゃ気になるなって(笑)。
増田:(笑)
永冨:それがすごい嫌やったんですよ。それでなんとかできへんかなと、いろいろ考えたら、耐震電球というのがありまして。
増田:耐震電球?
永冨:文字通り振動に耐える「耐震電球」というのは、2本のアームからフィラメントが五角形の家型になっていまして、これを改造したらフィラメントをもう少しキレイに、かつ調光なしでも見れるようなやつにできへんかなと思いました。
増田:なるほど。
永冨:それで、いろいろ調べてたら、日本って100Vだと思うんですけど、例えば海外で一般的な230V電球を日本で使うと、半分の電流しか流れない。なので明るさも半分になります。これは、フィラメントが見れるぐらいの照度なんですよ。ということは電圧を上げていけば、日本でもそういう電球を作れるんちゃうかなと思いまして、今130Vの電球を作っています。これだと、明るさは落ちるんですけど、寿命は倍以上伸びるんですよ。輝度も抑えられるので、眩しさが抑えられる。 というのを今、E17とE26の2種類で作っています。
それと、照明器具のデザインをしても、電球が無くなってしまうと意味がない。なので一般的に買えるような価格帯の白熱電球を作ろうと思いがあります。電球工場って今軒並み倒産して、国内で(白熱)電球をまだ作ってる会社って10社位なんですけど、日本製で今作れるうちに、少しでも、そういう工場の助けになればと。
増田:具体的にいつ頃販売予定か決まっているんでしょうか。
永冨:予定より伸びてしまいましたが、照明の新作を出す秋くらいに同時に出せればと考えています。
増田:是非見たいですね!
永冨:でも「THE電球」って感じの、パッと見「何が違うんやろ」ぐらいの普通のものとなんら変わらないのものの予定ですよ。あくまで消耗品なので、普通の、一般的に買える価格でという事を強く意識しています。
増田:面白いですね。確かに、照明を作られている方って環境問題も含めて、LED化だったりについて葛藤があったりするのかなと思っていました。
永冨:実は、同時進行でLED電球も計画中です。
増田:(笑) それもまた楽しみですね。 本日は、ディープで、興味深いお話をありがとうございました!!