BOLY インタビュー② ふしぎデザイン 秋山慶太さん
スマホで撮った旅の思い出がレシートに印刷されるデバイス「TRAVELLIUM(トラベリウム)」。
シンプルに言えばスマホプリンターですが、「旅の記憶」に特化してデザインされたことで、独特の魅力を放つアイテムです。
このプロダクトは製品として市場に出回っていません。しかし、ホテルという「旅の拠点」に置いたらきっと楽しい…!と、秋山さんにTHE BOLY OSAKA仕様での製作をお願いしました。
今回は一言では語りきれないその魅力を掘り下げる為、秋山さんのオフィスにてお話を伺いました!
INTERVIEWER:THE BOLY OSAKA ゼネラルマネージャー間宮尊
ふしぎデザイン 秋山慶太さん
デザイン事務所「ふしぎデザイン」のプロダクトデザイナー。1988年生まれ。「不思議なものを生み出し、世界の不思議を見つめる」というステートメントのもと、心を動かし共感を生むデザイン・プロトタイピングを行っている。
オルタナ系デザイン事務所?
間宮:会社名の「ふしぎデザイン」とは?
秋山:一般的な電子機器は〈速い・綺麗・頑丈〉など、便利なものであることが至上命題です。
でもそれだけじゃなくて、ちょっと心をいい感じに動かすとか、びっくりするもの。もしかしたら驚きや悲しみがあるのも面白いんじゃないか。
そのような新しい価値としての「ふしぎ」を探求し、生み出すことを目標にしています。
間宮:トラベリウムは正にそれを体現していますよね。
秋山:はい。写真はモノクロだし、出力に一分くらい掛かるし…
でもそこには便利なものにはない魅力が出てきます。
間宮:ゆっくり出るから「がんばれ〜」ってなります(笑
秋山:紙が出てくるときに音がカラカラって鳴るのが可愛いかったり、出てきたレシートもすぐにぐちゃぐちゃになっちゃうし。絵は潰れるし。
でもそれがいいなと思えた。
そういった「スペックでは測れない魅力をもったもの」を初めて作れたのがトラベリウムです。
間宮:それは意図して作られたのですか?
秋山:「やってみたら案外よかった」という感じです。笑
強くて速いだけじゃなく、そこから漏れたけど価値のあるものを形にできたと思います。本流だけを目指していれば作れないものだな思っていて、そういった意味で「うちはオルタナ系の事務所です」と紹介してます。笑
「記憶と共に古くなった写真」のエモさ。
間宮:レシートに着目した経緯を教えてください。
秋山:スマホの中の写真は劣化しない。一度撮影すればいつまでもその姿を残します。
一方で、出力された物は古くなります。この「古くなる」というのは記憶の性質とすごく似ていると思っていて、過去を思い出させるようなフラッシュバック能力があるんじゃないかと考えていました。
それはピカピカのデータとは違った魅力です。
間宮:レシートって断片的な情報しかないからこそ思い返す余白が生まれますね。三ヶ月前のボロボロのレシートがヒョッこり出てきて必死に記憶を辿ったり。それは経費処理の為にですが…。
秋山:レシートは熱印字だから、財布に挟んでおくとどんどん擦れて潰れるんですよね。紙もペラペラだから破れやすいですし。
間宮:その脆弱さ・非永遠感に、ある種の「エモさ」を感じました。
秋山:レコードやカセットのリバイバルといったアナログ回帰の流れは意識しています。
間宮:そもそもなんで最近はそういう感情が求められているのでしょうかね?
秋山:今の世の中は完成されているものが多いから、不完全なものに感情移入するからではないでしょうか?
ー 外観デザインについて
間宮:これはスーツケースでしょうか?旅のアイテムっぽさがすごく魅力的です。
秋山:そうです。そしてトラベリウムには脚が生えています。
ここもスーツケースの足の形状を真似ていて、旅をイメージしています。
箱型のプロダクトは普通は脚を隠すけど、あえて見せてみました。
小動物っぽさが出て良いなと(笑
旅行から帰るのを家で待っててくれる存在としてデザインしました。
間宮:本来は自宅で使われる想定でしたね。ホテルで設置されることを想定していましたか?
秋山:いえ、全く。(笑
もともとは家で待っててくれる感じを想定していたんですが、代わる代わる色んな人がきて、宿猫のように皆で可愛がってもらうと嬉しいですね。
たまに動かなかったり、あの子のはすぐ出力したのに私のは反応悪い…とか。
それ自体も楽しんでもらえるといいなぁ……というのは言い過ぎでしょうか。
これからの旅の記録デバイスについて。
間宮:現在はスマホが覇者ですが、今後、旅に持っていく記録メディアで注目しているものはありますか?
秋山:日記帳や御朱印帳とか、押し花とか…ですかね。
メインはスマホで、サブがそれぞれ発展していくのではないかと考えています。
特に「もの」に残るものは続いていくのではないでしょうか。
なんでもできる有能なスマホがあるからこそ、サブはどんどんパーソナライズしていくと面白いですよね。
秋山慶太 プロフィール
:1988 年 東京都小金井市生まれ 神奈川県相模原市育ち
2011 年 多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業
2011 年―2017年 象印マホービン㈱ デザイン室に勤務 調理家電/ 生活用品のデザインを担当
2012 年 グッドデザイン賞 受賞
2012 年 ものづくり集団「電化美術」に所属
2015 年 関西のデザイナー集団「saido design project」に所属
2017年 デザイン事務所「ふしぎデザイン」設立
2018年 京都市立芸術大学 非常勤講師(夏期集中講座)
Twitter @keita_ak
Webサイト:http://fushigidesign.com
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